2006年3月16日

建築士のための指定講習会(2)

 前のエントリーに続いて”建築士のための指定講習”について

 今回は、実際の講習の内容を自分メモとして記録。


1.法改正の動向 ・・・講師)茨城県建築住宅センター副理事長、金子氏
  既存建物の増改築などによる有効活用の促進、既存建物の法規制適合化を図る法改正内容を説明
  1)増改築時に構造上分離(エキスパンションジョイント等)していれば、分離された部分は構造規定に適合する改修は必要なし。
    →部分的な耐震改修を認め、既存建物の耐震化を少しでも促進したいとの意向

  2)シックハウス規制以前の建物の増改築時に建具などで換気的に区画した場合は、既存部分のシックハウス規制は掛からない。

  3)既存木造住宅の無筋コンクリート基礎の補強方法など改修基準の整備
    →軽微な方法で無筋コンクリートの基礎を補強できるようにし、古い木造住宅の改修や小規模な増改築を促進する意図

2.契約への対処 ・・・講師)弁護士 水口氏
  1)契約の成立
     口頭でも契約は成立。しかし、後日トラブルになった場合の立証を容易にするために契約書は作成した方がよい。
     契約書は内容を説明し、説明し内容に納得したらその場で双方の確認の印を押す。印はサインでも可。

  2)契約形態
     設計ないし工事監理契約は、委任契約か請負契約かで学説上も裁判上でも定かではない。
     委任契約:たとえ仕事を完成しなくても、それが設計者の責任でなければ、業務を遂行した割合に応じて報酬を請求できる。
     請負契約:仕事を完成しないと報酬請求できない。

  3)設計業務の範囲
     敷地境界に関しては、一般的には依頼主の指示・提示した図面等に基づいて、現地を調査し確定すれば足りる。
     しかし、専門家として、境界が不明その他紛争などの事情がある時は依頼主の協力を求めるなどをして正確な調査をすべき。
     境界確定に関しては、本来弁護士などの法律専門家にゆだねるべき事項と考えられ、設計者は法律専門家でなく、必ずしも
    十分な法律的知識を有していない以上、依頼主にその旨を伝え迂闊な判断は下さない。

  4)不法作為責任
     設計者は業務として設計を行っている以上、専門家として高度な注意義務が課せられている。従って、予見可能性の有無も
    専門家としてのレベルを基準として判断される。
     設計者として課せられている注意義務としては、建物の構造・機能に関することは当然として、近隣への日影の配慮、防災
    ・防犯や使用上・維持管理上の安全性への配慮など多方面にわたる。

3.室内環境 ・・・講師)建築研究所 環境研究グループ上席研究員 堀氏
  1)室内環境
     快適な室内環境とは、不満足を感じさせない環境。
     人によって求める環境の重要度と満足度は違う。一律に快適な室内環境を定義づけることはできない。
     設計者とユーザーの間で対話を通じてお互いの考えや要求をすり合わせることが不可欠となる。
     ユーザーにイメージされている環境をしっかりと把握して設計を行い、また設計により実現される環境を事前にできるだけ正
    確にイメージさせることが重要。
     室内環境は、室内の利用者の感覚によって判断されるので、不満足があればすぐに顕在化する。建物使用開始後のフォローも
    必要となる。
     住宅の量から質へのシフトに伴い、設計者にとっては、室内環境のデザインが他との差異を付けられるセールスポイントになる。

  2)光/視環境
     一室に一つの照明器具による均一な照明計画ではなく、複数の照明器具による様々な生活シーンに合わせ可変な照明計画を薦める。
    それにより、必要に応じた照明のON・OFFができ、生活シーンの演出と省エネルギーにつながる。

  3)音環境
     壁・床の遮音については、マンションのカタログなどで等級が謳ってあるが、その等級の遮音性がどの程度であるか、設計者
    として実感し把握し、数値だけでなくそのユーザーの求めるイメージに合致した設計を行う必要がある。

  4)設備
     エアコンなどの冷房設備は、機械の持つ能力の8割程度で運転するのがエネルギー効率がよい。
     一般的に電気店などで表示されている能力は、「8〜10帖用」などとなっている。
     この表示は、断熱性が低く気密性も低い古い木造家屋で中部地方に立地するような条件設定となっている。従って、関東地方の
    新築の住宅であれば、この表示に沿うと明らかに過剰な能力になってしまう。
     その空間の熱負荷を計算して、必要な能力の冷房設備を導入することが省エネルギーになる。
     エアコンなどは、引き渡し後に居住者が購入設置することが多いが、設計者としては、省エネルギーの観点から、部屋毎のエア
    コン選定の目安を示すことが必要であろう。

     引き渡し時には設計者として、給湯器やキッチン・便器などの個々の設備器具の取扱説明書だけでなく、仕上材の更新期限目安
    や照明灯具の種別・上述のエアコンの選定能力目安・建具などのメンテナンスマニュアル・塗装メンテナンスマニュアルなどを盛
    り込んだその建物の「取扱説明書」を用意すべきである。

4.建築士及び建築士事務所のマネジメント ・・・金沢建築設計事務所代表 金沢氏
  1)書類の保存・閲覧・開示が義務

  2)自己責任に対する備えとして、記録の作成、書面の交付、賠償保険などに入る。

  3)構造・設備の設計などの外注業務についても、そのプロセス監理が必要

5.シックハウス対策 ・・・美和建築研究室代表 美和氏
  1)シックハウス症候群とは
     シックハウス症候群(厚生労働省・国土交通省)と化学物質過敏症(北里大学)は違う。
     シックハウス症候群は、ある物質に対して一定許容量を超すと発症するが、化学物質過敏症は、特定の化学物質に対して直ちに
    反応して発症する。
     シックハウス規制の根拠となる化学物質の種類とその許容値は、WHOの基準をそのまま指針値としている。そもそも体外物質に
    対して耐力のあるアングロサクソン系欧米人の基準を日本の基準として良いのか疑問。
     一方でシックハウス症候群の疑いがあるとして診断を受ける人の8割が、精神的なもので、検査を受けるとシックハウス症候群で
    はない。
     シックハウス規制とその指針値は、安心基準であり安全基準でないことをユーザーに伝える必要がある。

  2)設計・施工の留意点
     設計・施工法については、既に様々な解説が出ているが、特に留意するのは、天井裏・床下・壁内部・クローゼット等収納スペ
    ースへの気密層・通気止めの施工。
     外周に気密層をとり、間仕切り壁に通気止めを施工しない場合には、天井裏等にも建材または換気による対策が必要になる。実
    際にはそれらを気密化して2階床下などに換気設備を設けるのは不合理であるので、建材による対策が現実的。

  3)シックハウス対策
     住宅の中では洋服用防虫剤とファンヒーターから大量に化学物質が発生している。また、飲酒するとその吐く息からアセトアル
    デヒドなどが大量に発生する。木や石などの自然物からも化学物質は発生している。
     この様に建築だけではシックハウスには対応しきれない。設計者としてユーザーへ換気の重要性などを十分伝える必要がある。
     また、24時間換気設備を設けても給排気孔のフィルター清掃を行わず換気量が不十分になることが多い、メンテナンスの説明を
    行うと共に、引き渡し後1年検査などの定期検査を行い、注意を促すことも必要。

6.木造建築 ・・・筑波大学名誉教授 下山氏
  1)木造軸組工法
     建築基準法に規定された仕様が、木造軸組工法であると理解されているが、筋交いなどを入れた耐力壁に依存する法令仕様の木
    造軸組工法は、建築技術史上歴史が浅い(約50余年)。それ以前の長い歴史(体系化してからでも約400年)のある木造軸組工法
    は、継ぎ手・仕口で一体化した立体架構全体で外力に対して抵抗させる工法。

  2)「筋交い」無しでも、法令に適合した木造建築はつくれる
     大壁面材耐力壁や真壁面材耐力壁で必要壁量を確保すれば、ホールダウン金物は必要ない。
     特に真壁面材耐力壁は、土台及び胴差しに固定しなくて良いので、内部間仕切り壁を耐力壁として算入しやすく、改修時にもつ
    くりやすい。

  3)「筋交い」や「耐力壁」を設ければ、地震に強い建物になるのか?
     ●片筋交いの場合、引っ張り筋交いの柱脚部に水平力以上の引き抜き力が掛かる。→ホールダウン金物の使用→金物結露による
      土台・柱脚部の腐食→経年により耐力が落ちる
     ●筋交いによる耐力部と非耐力部の組み合わせによる軸組では、筋交いによる耐力部をつなぐ部分(非耐力部分)が簡易である
      と架構は耐えられない
     ●柱間の単純梁で異なる梁成の梁を継いで行くと、非耐力部分で崩壊する。→連続した梁または剛性の高い上階床が必要。
     ●面材による耐力壁を組み合わせた軸組では耐力壁をつなぐ部分(非耐力部分)が抵抗するため、柱脚の引き抜き力は小さい
      →ホールダウン金物の使用規定が少ない。
     結論)筋交いを入れるだけでは架構全体は強くならない。面材による耐力壁を組み入れた軸組の方が地震に強い

  4)「耐震補強」で地震に強い建物になるのか?
     ●必要壁量を筋交いにより設けただけでは架構全体は強くならない。
     ●無筋コンクリート基礎の外部からの補強は、土台の乗る基礎自体を強くしていない。補強の効果の責任は誰がとるのか?
     ●地震は慣性による力であり、そのエネルギーを瓦や壁の崩壊エネルギーで消費し軸組への影響を小さくした方がよいのでは?
      「耐震補強」の方法では土台と基礎・瓦と下地を緊結し、その上で部分的に耐力壁をつくり建物全体に掛かる力をその耐力壁
      で受ける考え方。施工方法の不備・経年劣化・想定外の地震時などで一気に崩壊する。

  5)「施工時の法令を遵守した建物の耐震補強」を誰がするのか?
      つくった時には国が定めた安全基準である法令に遵守していた建物を「耐震補強」させるのは何故か?
      当時の法令は誤りであったのか、だとしたら法令をつくった責任は?
      将来、また安全基準が変わり現在の法令に遵守した建物が不適合になる可能性は無いのか?その責任は?

  6)木造建築の今後
      近世までの技術者は、当面する課題について、自分たちで考えるのが当たり前であった。それ故、日本の木造技術は優れたも
     のになった。
      しかし、工業化による省力化と大地震の度に対処的に変えられてきた法令により、自分たちで考えなくなった。
      その結果、木造建築の寿命は短くなった。
      ここらへんで、「法令だけに従えばいい」という考えから脱する必要がある。そうしないと、技術は停滞してしまう。

     

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