2005年11月22日

構造計算書偽造事件について考えてみた(1)

 建築確認申請時に添付する構造計算書の偽造事件について考えてみた。

 同じ業界に居る人間として、構造計算書を偽造していた構造設計者には非常に憤りを感じる。同情の余地もない。

 しかし、当初の報道では、彼だけに責任の追及の焦点が絞られており、非常に違和感を感じた。また、悪者捜しに終始し、こういう危機が起こった時に最優先でとるべき行動をとっていないテレビ・新聞などの報道の底の浅さを感じた。

 報道としては、事件の事実(耐震性能が不足している建物)を世間に広めると共に、震度5程度で崩壊の恐れがあるというコトの緊急性から被害者対策を強く訴えるべきであろう。販売主・設計者・施工者・検査機関・行政それぞれに責任があるのは自明なのだから、誰が一番悪いのかという詮索だけの報道姿勢は底が浅いとしか云いようがない。

 この事件を引き起こした全体の構図を考えてみるために、事件を入口と中間、出口に分けて考えてみる。

 先に書いたように、とりあえず最優先させるべきは、出口部分であると思う。最優先すべきは、近隣を含む住民の安全についての対策であろう。当たり前であるが、地震はいつ来るか判らない。どの程度の耐震性能があるのかを大至急調査する必要がある。不安なまま過ごす入居者のために、出来るだけ正確な現状を調査すべき。
 バルコニーの床のFRP防水のシワ(番組では亀裂と言ってたが、・・・)や、外壁モルタル部分の収縮亀裂(広い範囲で目地を切ってないので、どこかで乾燥収縮による表面モルタルの亀裂が出る)を撮影し、建物崩壊の不安を煽るような情報番組も見かけた。報道では地震が来ると必ず崩壊する様な印象を受ける。キチンと調査し、本当にそうであれば、そこに住んでいる人たち・周辺に住んでいる人たち・その建物の足元を通行する人たちの安全を確保するための緊急措置を大至急講じなければならない。人命にはかえられないのだから、行政で引っ越し・取り壊しを命令するぐらいのことをしないといけないと思う。
 一方、調査の結果、そこまででなければ、不要な心配を煽るようなことは止めるべきである。

 いずれにしても、建築構造の専門家が工学的な検証を大至急行い、正確なパブリックコメントを出すべきである。JSCA(日本建築構造技術者協会)JIAなど、自らの職能の危機であるので、大至急、積極的にアクションすべき。JSCAに至っては、11/22になってやっと会長コメントを発表した。遅い!



 次に重要なのは入り口の部分である「何故このようなことが起きてしまったのか」という原因だと思う。

 当初、問題の構造設計者は、「コスト削減のプレッシャーがあった。」と言っていたが、どうも腑に落ちない。それが彼の犯行動機なのか?

 そもそも、設計者は、耐震性能という基本的な最低限の性能を落とし工事費が安くなるような設計をしても、何の利益も出ないはず。何故ならば、設計者は工事を請け負うわけではないので、工事費での価格競争は直接的には関係ないはずである。何故「(建設)コスト削減のプレッシャー」で彼が構造計算書を偽造しなければならなかったのか?

 それでは、逆に考えてみると、構造計算書を偽造したことで誰が得をしたかを考えると、まずは販売主であると思う。事業収支上、粗利を確保しつつ販売しやすいように販売価格を下げるためには建設工事費を縮小するしかない。建設工事費を縮小するためには、複数の施工者(いわゆるゼネコン)に同じ設計内容で価格競争をさせるのが一番判りやすい。ところが、今回の事件を見ると施工者の大半は木村建設というところであり、しかも設計と施工を一括発注している。また、報道によると問題の構造設計者もこの木村建設の指定であったという。デタラメな設計によるコスト縮減を行い、他の施工者が競争出来ない仕組みを作り工事を受注してきた構図が見える。この施工者こそが、構造計算書を偽造させることで得をしている。

 恐らくは、販売主も何故安く建設出来るのか施工者から知らされてなかったかも知れない。しかし、人の口には戸は立てられない。現場を施工する職人や下請施工者から「鉄筋少ないんじゃねえの?」とか「梁成(梁の高さ)足りないんじゃないの?」とかいう評判は伝わって、構造的に問題があることは知っていたと思う。

 これらのことから、犯行の主犯は、施工者と販売主であり、実行犯は構造設計者であると思う。

 では、何故このようなことが起こってしまったか?マクロ的にはデフレによる価格競争の激化によるものと倫理観の欠如と片付けられてしまうが、もうちょっと具体的に考えてみる必要がある。

 設計・施工の一括発注に問題がある。設計と施工を一括して施工者に頼むと云うことは、病人の治療を薬屋に頼んでるのと同じであると思う。ちょっと複雑な症状の病人であれば、医者の診察を受け、適切な処方箋を出してもらい、薬局で薬を買うのが一般的だと思うが、それをいきなり薬局に行って薬屋の利益の上がりやすい、もしかしたら副作用の出るような薬を買っているようなものだと思う。


 施工者に設計まで依頼するということは、施工者が利益を上げやすい設計を依頼していることである。販売主にとっては安く建物が出来ればそれで良いのかも知れないが、重要な建物の性能まで下げられてしまう可能性がある。特に、マンションやホテルなどの建築主がユーザーではない建物を設計・施工一括で発注するのは、ユーザーのことを考えると問題であると思う。

 今回の場合、設計者が施工者とは無関係の立場であれば、設計者がコスト削減のプレッシャーを受けて設計していたとしても、柱の主筋(柱の中の主要な太い鉄筋)が少ないようなデタラメな設計は出来なかったはずである。

 入り口の問題については、現在、販売主・施工者・設計事務所・構造設計者それぞれの言い訳が食い違っていて混乱しているが、しだいに明らかにされるだろう。



 今日はここまで。中間部分の問題点(建築確認と中間・完了検査などの工事中の検査)については、また後日。



参考サイト:さるさる日記-きっこの日記
 

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コメント

>恐らくは、販売主も何故安く建設出来るのか施工者から知らされてなかったかも知れない。
>しかし、人の口には戸は立てられない。現場を施工する職人や下請施工者から「鉄筋少ないんじゃねえの?」
>とか「梁成(梁の高さ)足りないんじゃないの?」とかいう評判は伝わって、構造的に問題があることは
>知っていたと思う。
>これらのことから、犯行の主犯は、施工者と販売主であり、実行犯は構造設計者であると思う。

施工者はその現実(構造上の問題:断面、鉄筋量の不足等)は知っていたはずt
普通に考えれば、施工者は工事費を算出するので、積算は必ず行なっているt
積算すれば建築延べ面積当たりの鉄筋量、コンクリート量、型枠量が分かり、
コンクリートm3当たりの鉄筋量、型枠量も知っていたはずであるt
マンション施工を数多く手がけているので有れば、それらのデータは持っており
それらの数値の大きい小さいは知っていて当たり前t
コンクリートm3当たりの鉄筋量、型枠量の大小関係には必ず理由があるt
鉄筋や、施工者、設計者はみーんな知っていたハズt
積算の時点で、鉄筋やから「鉄筋少ないんじゃねえの?」ってな意見が施工者にあった
と、俺も予測するt

それから「構造計算書」がやたら取り上げられているが、図面(部材リスト)を
見りゃ直ぐに「この設計、おかしい!」と気付かない検査機関も問題t
10階建ての1階柱:□850,主筋D25(X方向6本、Y方向4本)、HPは中子1本t
あり得ない配筋だt
結局、検査機関は図面も計算書も見ていなかった事になるt
構造を分かる人間が、チェックしていなかったという事実t

「主犯は、施工者と販売主であり、実行犯は構造設計者」

コヤツは「コスト削減のプレッシャーを感じて云々」と言っているが、
構造体を削って果たしてどの程度工事予算削減に繋がるのだろう?
工事費全体から見れば、鉄筋工事費なんてたかが知れているt
彼には洗いざらい全部ぶちまけて欲しいねt
それが彼の最後の仕事だろうなt
木村建設の各担当者、今頃ビクビクもんだろうt

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