2005年9月 2日

住宅に求められる性能・・・紺屋の白袴?身をもって体験したこと

 7月下旬に弟が入院した。2年半前に手術した病気の再発で、今回は手術はせず、とりあえずの処置を病院で施した。今後は、自宅で療養したいとの本人の希望。症状は、言語の障害と右の手足の麻痺、右側視野の欠落。自分で歩行ができないので車椅子生活となる。


 自宅は、16年ぐらい前に某木造系の大手ハウスメーカーで建てかえている。(残念ながら、僕の設計ではない。)8月下旬に退院し、自宅に帰ってきた。日常の介護は、僕の両親が行っているが、自宅の数々のしつらえが、日常生活をおくる上で障壁となっている。僕も2・3日という短期間であるが介護をしてみて、身をもって、住宅設計上の配慮が必要であることを痛感した。

 弟は10万人に1人の病気であるが、病気でなくとも、事故等でいつ障害を負うことになるかわからないし、何よりも誰でも歳をとると身体的・精神的に障害を生じる可能性が高くなる。
 障害を負ったときに、住み替える・建てかえるという余裕のある人、設備の整った施設に入るという覚悟と社会保障が無い限り、住宅をたてる時に、事故や加齢によって障害をおっても住み続けられる配慮を、真剣に検討し設計内容に盛り込まなくてはいけない。

 以下痛感した自宅の建築上の問題点。
1.玄関上がり框の高さと形状。400㎜の段差は、車椅子用のスロープを付けることは不可能。平面的に入り口に対し平行でなく、斜めに上がり框があるため、玄関内での車椅子の回転がきびしい。
2.玄関に壁が少ないため、必要なところに手摺を付けられない。
3.内部建具の沓摺(くつずり)の段差。内部建具がほとんど規格物の片開きドアのため、沓摺が付いていて段差が約1㎝。車椅子では自力では乗り越えられず、押しても前輪を浮かせないと乗り越えられない。
4.内部建具の有効幅員は、車椅子が通れる幅があるが、その手前の廊下幅が狭いため、右折・左折しての通過が困難。
5.トイレの壁に手摺を付けたいが壁下地が適当な位置にない。
6.階段の勾配が急で曲がっているため半身が麻痺すると、上りまたは下りができない。
7.脱衣室と風呂場の間が片開きドアのため、自立で歩行ができない障害者にとっては、ドアが開けられない。(狭いところで後退しながらドアを開けることができない)
8.そんなに広い家ではないのに、廊下を設け小さい部屋を多く設けているため、車椅子では移動がしづらい。
9.トイレのドアが内開きの片開きドア。トイレの中で人が倒れたら開かない。これは新築当初から直すように進言したが、廊下が狭くなるという理由で改造せず。今回無理矢理ドアを付け替えた。
10.その他

 福祉施設や高齢者施設を何件か設計したことがある。先進事例をケーススタディーしたり、類似施設のユーザーにヒヤリングしたり、書籍等で勉強して設計した経験があるので、そういう施設の寸法や動線についてはそれなりにわかっているつもりだった。しかし、家族の介護を経験してみて、やっと本当にわかることもある。

 わかっているつもりでも、経験してみて、やっと本当にわかるということを実感した。住宅を設計するときには、将来高齢になった時や事故・病気で障害を負った時のことは、一応考えはするけど、おざなりになってしまっている気がする。住宅を建てようとするときは、気力体力共に健全な人が多いので、家族に障害者でも居ない限り、本当の意味で”誰にでも住み続けることができる家”をつくろうとは、思えないのかも知れない。そんなことよりも「カントリー調のすてきなウッドデッキ」や「少しでも多くしまえる収納」や「付書院のある格式ある床の間」の方が気になるのかも知れない。

 事故や病気はわからないが、誰でも歳はとる。歳をとれば体や精神に障害は起こる可能性が高くなる。いや、ほぼ起こる。そうなった時にでも住み続けることができる、少なくともほんのちょっと手を加えれば住み続けられる基本性能が住宅には絶対必要だ。
 一方、バリヤフリーとかユニバーサルデザインとか云う言葉だけが軽々しく使われているような気もする。”誰にでも住み続けられる”という意味での”ユニバーサルデザイン”であれば、声高に「うちの設計はユニバーサルデザインでやってますから」なんてワザワザ云わなくても、最低限の基本性能であるはずだ。マニュアルやチェックリストで「床の段差:あり・なし」「開口幅85㎝以上:○・×」とかやってできるほどこの基本性能は、簡単ではない。自分が障害を持った人間または介護する人間になったつもりで、その設計プランの中を歩き回って、生活してみないとわからないと思う。
 などといいながらも、僕も介護をし続けることによって、また新たにわかってくることが増えていくのだろうな、と思う。これからの住宅の設計に生かしたい。いや、生かさなければいけない。

(9/4追記)
 週末にまた弟のところに行ってみると、玄関の車椅子用スロープを父親が苦労して自作してあった。素人作業ながら、素晴らしい出来だと思う。折りたたんで収納出来るところなんか、素晴らしい!と思う。
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