2005年6月18日

男たちは北へ

Hita Title

"男たちは北へ" (風間 一輝)を再読。  夏が近づくと、読みたくなる本。夏は、一人で、長い距離を、見知らぬ土地を行く課程をフィジカルに実感しながら移動したくなる。

 内容は、中年グラフィックデザイナーは自転車で、自立しつつある家出少年は徒歩とヒッチハイクで、東京から青森を目指す。陸上自衛隊幹部の法務官は、ある機密を守るためにグラフィックデザイナーを追う。ロードゴーイングストーリー。

Otokohyoushi-2

 物語は、中年グラフィックデザイナーと自衛隊法務官という2人の男たちが一人称で語ってゆく。
 グラフィックデザイナーは、横文字の職業とは裏腹に、筋金入りの硬骨漢なのだが、自分自身を恥じることの多い男。親友が語った言葉から、その体験を自分も実感し、親友が果たせなかったことを達成するために自転車で青森を目指す。とあることから、出発後まもなく拾い物をし、その拾い物を巡って、自衛隊幹部が機密を守るために動き出す。

 自転車の男は、途中、徒歩とヒッチハイクで青森を目指し同じ国道4号線を北上する少年と出会う。少年は、手違いから希望する高校へ入学出来なかったこと・両親の離婚という、彼の人生において初めて自分自身ではどうしようもない運命を受け入れられずに家出してきた。男と少年は偶然出会った。男は少年に、同志としての共感を持ちながら、一人前の男として接する。簡単に一緒に旅をするなんてことはしない。少年も甘えない。旅をするに従って少年は男になってゆく。

 自衛隊法務官の男は、上司であるエリート一佐の命令を受けて内密に自転車の男を監視し、部下に自転車の男が拾ったものを気がつかれないうちに奪還させようとする。自衛隊、軍という組織の中で上官の命令は絶対であり、組織の機密を守ることは絶対である。しかし、この法務官は、グラフィックデザイナーに共感を覚え、見えない大きな力に逆らってまでも、自分の価値観を貫き通す。
 
 「北へ旅する」=「敗走」のイメージがつきまとうのは何故だろう。古くは、大和朝廷に追われたアイヌの民族、源義経などなど・・。"スズキさんの休息と遍歴―またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行" (矢作 俊彦)のスズキさんも一人息子のケンタと北を目指した。

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