2005年5月 5日

半島を出よ



"半島を出よ (上)" (村上 龍)
 右のRecomendにもあるが、「半島を出よ(上・下巻)、村上龍 著」を読んだ。
 読んだのは、もう2週間ほど前だったのだが、なかなか自分のなかで整理がつかなくて、エントリー出来なかった。
 エンターテーメントとしては、「面白かった。」と一言で言い切れてしまうが、最近の村上龍さんの近未来の世界を描いた小説は、事実の裏付けと分析が徹底していて、タイムマシーンに乗って見てきた近未来のノンフィクションに思えてしまって、単純には楽しめない。



"半島を出よ (下)" (村上 龍)
 先日の午前中のテレビに村上龍さんが出ていて、「半島を出よ」の描く近未来世界について、「現状を分析すると、なりうる未来であると思われるが、最悪のシナリオをたどった場合の世界」というようなニュアンスのことを言っていた。
 それで、少しスッキリした。小説なんだから、リアルな嘘のほうが面白いということ。リアルな嘘のためには徹底的に現実を分析することが必要だということ。

 やたらテレビなどで紹介されているが、よく見えてこない北朝鮮という国。もっと良く判らない北朝鮮の人々。さらに軍隊も戦争もない環境で育った僕らには絶対に判らない特殊部隊の兵士の考えることとその行動までの思考プロセス。
 組織・社会・集団に属することを拒んで、または属することになじめない、けれどニートとかオタクとかそんなカテゴリーにも属さない人達。
 従来の環境に適応しすぎてしまっていて、北朝鮮反乱軍(実は反乱軍ではないが)という異物が入り込んだ突然の環境変化に適応出来ない集団思考型の従来のシステム。
 この3つの視点から物語は進んでゆく。映画を見ているようなテンポの良さと、舞台となる福岡などの都市・建物と小道具となるヤドクガエルやブーメラン・武器弾薬類の描写のリアルさに引き込まれて、時間を区切って読むのが困難だった。あまりストーリーについて述べるのは下策なので、ここら辺で停めておく。

 小説ではなく、近未来ノンフィクションとして考えると、クライマックスにいたる終盤近くで北朝鮮の女性兵士の心情の変化と変わらない祖国への想いが「明るい近未来」への道を示唆していると思う。憲法9条の2項の改正などで、自衛隊を軍隊として法律上位置づけることについて世間は騒いでいるが、国を守る、近隣の不安定な国との関係性を保つのに本当に軍隊は必要なのであろうか?ソ連が崩壊したのはアメリカが軍隊の脅威を盾に外交したからだろうか?東西ヨーロッパの壁が無くなったのは、フランスやイギリスなどのNATO軍がワルシャワ機構軍より強かったからであろうか?

 911の世界貿易センタービルの崩壊についても、旅客機衝突ではなく、爆破であった可能性を語る場面があって、JMM編集長の村上さんらしい。
 
 是非、読んで、楽しんで、そしていろいろ考えて欲しい。

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